タイ・バンコクにおける環境保護行動と人々の意識の考察

①解説

【3点解説】-たった1分で内容をざっくり把握!-

 環境保護行動(PEB)の育成は、持続可能な社会の実現に向けた重要なステップであり、先進国と途上国の両方にとって大きな課題となっています。しかし、途上国の視点からのPEBを理解することは難しい。この制限を考慮して、PEBにいくつかの洞察を提供し、発展途上国の市民がそれらをどのように認識し、実行するかを明らかにすることを目的とし、この研究が行われました。調査はバンコクとその周辺のタイで行われました。

 回答者の大多数がある程度までPEBに従事していることが調査結果から示されました。環境への認知度の高さ、年齢が高齢であること、女性であることの3点は、PEBへの大きな因子となりました。

 文献との詳細な比較により、(先進国、発展途上国などの)さまざまな社会の市民によって実行されたPEBに対する考え方の類似点と相違点が明らかになりました。





【方法】

対象地域となるのは、バンコクとその周辺にある、ノンタブリ、バトゥムタニ、サムットプラカーン、サムットサコーン、ナコンバトムの5地域。これらの地域はバンコク首都圏(BMR)と呼ばれ、バンコクの都市か、行政、経済活動、産業の中心地となっています。

調査は2015年の7月1日~10日までの10日間、オンラインにて行われ、1035人からの回答を得ることができました。回答者は全員BMRに住むタイ人で、20~59歳の男女でした。

質問紙は下に示す4つのパート(合計49の質問)から構成されました。

  1. PEBの実践
  2. 環境関連のラベルやキャンペーン
  3. 人々の認識
  4. 社会人口統計

このうち、PEBの実践の要因に深く関連するのは1,3,4となります。

回答者は49個の質問を、それぞれ「いつもする」「よくする」「ほとんどしない」「しない」の4段階で回答します。その上で、「いつもする」「よくする」を選択したらする理由を1つ選び、同様に「ほとんどしない」「しない」を選択したら、その理由を1つ選ぶように求めました。

質問の最後に、性別・年齢・学歴・居住地・家の大きさ・家のタイプ・世帯収入といった人口動態を尋ねました。

得られたデータを記述的統計で処理し、また行動を行った(行わなかった)理由の結果についても記述的統計を適用しました。



【結果】

まず、回答者の基本的なパーソナリティについてまとめる

・回答者の大半(73.1%)がバンコクに住んでいる

・男性は51.4%、女性は48.6%とほぼ同数

・20代、30代、40代は28.4%とほぼ同数であるが、50代は14.8%と少なかった

・回答者の多く(69.4%)は学部卒程度の教育を受けていた

・戸建て住宅に住んでいる人が多い

・家族構成は4~5人程度で、世帯年収は40,001~50,000バーツの範囲内である

タイ全体の平均と比較して、学歴や世帯収入などが高いことから、回答者はかなり高所得者層の、教育を受けたグループといえる。

PEBの状況を説明するため、結果は実践スコアのパーセンテージで表されている。

49個のPEBのうち、41個のPEBは、「いつもする」と「よくする」の回答で、50%以上が実践で観察していました。最も実践率が高かったのは「照明を消す」、「エアコンを消す」、「テレビを消す」で、それぞれ91%、90%、89%と、照明、エアコン、テレビを使用していないときには、常に、または頻繁に消していることがわかりました。

実践率が 50%未満だったのは、「LED を使う」、B「生ごみ(KW)コンポスト」、「マイバッグ」、「個包装を避ける」、「リサイクル品を買う」、「オーガニック商品を買う」、「CO2 を気にして買う」、「ハイブリッドカー」の 8 つの行動でした。これら8つの行動のうち、「コンポスト」が最も低く、食品廃棄物の堆肥化を常に、または頻繁に行っている人は25%にとどまりました。



【結論】 

タイ人は一般的にPEBに精通していることがわかりました。回答者の半数以上が、調査対象となった行動のほとんど(49の行動のうち41の行動)を常に、そして頻繁に行っており、さらに、習慣や節約のために行っているという理由もありました。ほとんどのPEBに参加する際の障壁としては、「不便」と「忘れてしまう」が主なものでした。

また、背景や国の発展の違いを念頭に置き、文献との綿密な比較を行った結果、

省エネや節水などの魅力的な節約効果を持つPEBは、先進都市でも発展途上都市でも市民によって十分に実施されているという共通点がありました。同様に、コスト面で魅力的でない要素を持つPEBは、あまり実施されていませんでした。

さらに、国の発展度に影響されてか、いくつかのタイプのPEB、特に廃棄物の分別・リサイクル活動の実施には、外部要因が強く影響していることが示されました。実際、ポジティブな影響が報告されたのは先進国の市民のみでした。





②実用性

この論文では、現在も急激な開発の続く発展途上国であるタイの首都、バンコク周辺の住民が、どのくらい環境保護行動(Pro-environmental behaviors: PEB)を行うのか、個人のPEB実践状況、個人のPEB実践の背景にある個人的な理由、PEB実践率に影響を与える主な要因などに焦点を当てて調査が行われた。

豊かな国の人々は、貧しい国の人々に比べて環境への関心が高く、環境に優しい行動をとることが謳われている。その一方で、環境への関心は先進国に特有のものではなく、普遍的なものであると主張する学者もいる。

調査の結果、バンコクおよびその周辺に住む人はPEBに精通していることがわかった。回答者の半数以上が、調査対象となった行動のほとんど(49の行動のうち41の行動)を常に、あるいは頻繁に行っており、さらに、習慣や節約のために行っているという理由もあった。また、PEB行動を妨げてしまう主な要因としては、「不便である」、「忘れてしまう」など挙げられた。

タイでは、女性や高齢者の方がPEB行動をより行うことが確認された。

背景や国の発展の違いを念頭に置き、文献との綿密な比較を行った結果、省エネや節水などの魅力的な節約効果を持つPEBは、先進都市でも発展途上都市でも市民に十分に実施されているという点で共通していることがわかった。同様に、エコ購入活動のような、コスト面で魅力的でない要素を持つPEBは、あまり実施されていなかった。

これらの結果から、深刻な環境問題を抱える発展途上国の都市や、これから急激な経済発展が起こると予想される国において、PBLの実践を働きかけることは有効な手段であることが見てとれる。また、そういった働きかけを、高齢者や女性を対象にして行うことは有効な手段と言えるだろう。




③使用した論文について

・タイトル

Insight into Pro-Environmental Behaviors and People’s Perceptions in Bangkok, Thailand



・URL

Insight into Pro-Environmental Behaviors and People’s Perceptions in Bangkok, Thailand
J-STAGE



・制作者

Sarunnoud PHUPHISITH*, Kiyo KURISU*and Keisuke HANAKI*

Department of Urban Engineering, Graduate school of Engineering, The University of Tokyo, Tokyo, Japan



・発表年

2017年

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