昨年の12月にキューバにいきました。いろいろと面白いエピソードがありましたが、今回は、『老人と海』『誰がために鐘は鳴る』などで知られる文豪アーネスト・ヘミングウェイにまつわる話をしたいと思います。
ヘミングウェイはキューバに魅了され、1939年から晩年までの21年間をキューバの首都のハバナ郊外に住んでいた関係で、ハバナにはヘミングウェイゆかりの地が数多く残されています。そのうち、ハバナの旧市街にある「ラ・フロリディータ(La Floridita )」というレストラン&バーは、ヘミングウェイが行きつけの酒場であり、カウンターの左手の奥のところはヘミングウェイの指定席だったところで、今でも彼の銅像が圧倒的な存在感を示しながら鎮座しています。
私は、ヘミングウェイの指定席とはつゆ知らず、ヘミングウェイになりきり、ヘミングウェイのご用達のカクテル「パパ・ヘミングウェイ」(砂糖なしのダイキリ)を傾けていたところ、バーテンダーが「●〇×▽△*%&JJ===」となにやら言っています。「?」「スペイン語わからないだよね~~」とほっておくと、しばらくして今度は数倍大きい声で「●〇×▽△*%&JJ===」と。この人はどうやら怒っているらしい。しばらくボー~としているとハハア~と閃きました!ヘミングウェイの指定席に座るなという訳ね。私は、な、なんとヘミングウェイの「パーソナル・スペース」を侵害していたのでした!
ソマーは、パーソナル・スペースを、個人を取り巻く目に見えない、持ち運び可能な境界領域で、そのなかに他者が入ると心的不快を生じさせる空間であると定義しています。ヘミングウェイは既に故人であるため、たとえ私がその指定席に座ろうとヘミングウェイを不快にさせるはずがありません。この場合、厳密に言えば、ヘミングウェイのパーソナル・スペースを侵害したというよりは、その酒場を利用する人々にとって暗黙理に合意の上で立ち入り禁止とされている場所に、異邦人である私が、ふらりと入り込んでしまったというのが真相です。玄関で靴を脱ぐ習慣がある日本人の家に来た外国人が、靴を履いたまま部屋の中に入ってしまったというケースや、床の間に上がってしまった子どもに近いですかね。
天国のヘミングウェイさんは、怒ってませんよね?
カクテル「パパ・ヘミングウェイ」と、自称ヘミングウェイのこと、アメリカ人のマイケル。キューバ人に「パパ」と呼ばれ得意満面だった。