美しい薔薇には刺がある(その2)

ブログを更新しなければと思いつつ、いつのまにか夏休みも終わり、すっかり秋めてきました。

 最近、とみに時間がたつのか早いのを実感します。フランスの心理学者ピエール・ジャネは「心理的な時間の長さは、年齢の逆数に比例する」という「ジャネの法則」を唱えていますが、最近の私の時間的な感覚は、ジャネの法則で説明できますかね。歳をとってしまったのかなぁぁぁ~。残された人生の時間のカウントダウンが・・・

 すでに報告したとおり、日々、自転車通勤をしております。高低差がほとんどなく、碁盤のような格子状な街路の対角に移動しているため、最小エネルギーの法則に基づき、無用に道草をしないルートは複数存在します。自転車通勤を始めたころにいろいろなルートを試した後に、なんとなくあるルートに固定するようになり、そのとき以降、現在まで同じルートを数年来、続けています。
 先の定番通勤ルート沿いに、薔薇が綺麗なお宅があることを発見しました。薔薇が咲く季節まで気付かず看過していたのです。庭一面に広がる薔薇の花の視覚的な美しさだけでなく、薔薇の芳しい香りに魅了されました。薔薇も複合環境評価や多感覚の統合的な評価の面白い事例となるでしょう。英国人がイングリッシュローズに夢中になることもわかる気がしました。
 日本の戸建住宅は、一般的に、塀で閉じられているケースが多く、オーナーのガーデニングの成果を、通りすがりの人があからさまに鑑賞できないことが多いのですが、この薔薇のお宅のように開放的であれば、街並みがより美しくなるのに・・・。と、野村監督流にボヤこうと思っていたところ、最近では、英国でみられるような、年に数回個人の庭をチャリティのために公開するという「オープンガーデン」が、わが国でもはやっているようで、全国に「○○オープンガーデンの会」ができているようです。英国では、The National Gardens Scheme Charitable Trustにより、イエローブックと呼ばれる、公開される庭の場所や日程についてのガイドブックを出版しています。

Gardens of England and Wales 2004 (National Gardens Scheme)

 私自身も郊外に居住しており、猫の額ほどのガーデニングスペースがあります。行き当たりばったりの思いつきで、一年草の花卉類や、ハーブ、野菜等を育てたりしておりましたが、薔薇に挑戦することを気まぐれで思い立ちました。園芸ガイドブックを参考に、初心者でも育てやすく強靭なものを選びました。日本各地の山野に多く自生する「ノイバラ(野茨)」、イングリッシュローズ(1969年に育種家のデビッド・オースチンが発表したオールドローズとモダンローズの交配によって生まれた園芸品種)の「グラハム・トーマス」、ハイブリッド・ティー・ローズ(モダンローズの一種)の「ブルームーン」、つるバラの「アイスバーグ」です。
 で、「結果は???」というと、「薔薇は難しい&奥が深~い!」が実感です。薔薇は、黒点病などの病気になりやすく、バアブラムシ、ハダニ、カイガラムシの害虫による被害も受け、また、元肥・寒肥・追肥を適切に施さなければすぐに機嫌を損ねるなど、たいへんに手間がかかることがわかりました(もっとも、ノイバラは原生種の本領発揮で例外的に無敵ですが、花がびっくりするほど小さい)。また、農薬は使いたくなかったので(かといって、木炭水などオーガニックな方法で、病気や害虫を防ぐこともしなかったので)、春先以外は、バラの葉っぱが無残にも全滅するようなありさま。とほほ~。
 先の自転車ルートのお宅も、定年されたとおぼしき、老夫婦が仲睦まじく毎日、わが子を慈しむようにお世話されていたなぁ~。
 そこでいよいよ本題、
 このお宅は、美しい薔薇を育てるために、やはり、農薬を頻繁に使用されていることも目撃し、自転車でこのお宅を横を通ることは、農薬に暴露するという、ある種の低レベルの環境リスクがわかりましたが、自転車通勤ルートを変更するに至っていません。その理由は何でしょうか?
 「美しい薔薇」を求める本能が、目に見えない環境リスク(「刺」)に勝った結果であると解釈できればきれいにこのトピックスがおさまるのですが、どうやらそうではないようです。この薔薇のお宅を通りたびに、農薬の環境リスクのことを思い出すのですが、翌日も、すっかり環境リスクとのことを忘却し、そのお宅の横を通るときに、その環境リスクを思い出すことの繰り返し。心理学実験実習の定番実験である、「鏡映描写」における「両側性転移」のように、一度、運動系で身体に染みついた自転車ルートを、低レベルの環境リスクを認知したとしても、ルート変更につながるほど効力がなかったということでしょう。
 ビジネスパーソン向けの「発想法」に関するハウツー本で言い古されたように出てきて、すぐにできる(?)と書かれている事例に、「通勤ルートを変えると、何気ない日常が、新発想、アイデアの宝庫になるでしょう!」なんていうものがありますが、なかなかもって、通勤ルートを変えることだけでも難しい行動変容ですね。
追伸:
 最近、内発的発展やサブシステム論に興味を抱き、慶応義塾大学の山本純一先生のHPを拝見したところ、山本先生のトップページに、「もし、みんながこの受け入れたくない世界を受け入れてしまうならば、世界は決して変わりはしない。by LouAnne Johnson」とありました。まさに御意なり。「ジャネの法則」により時間感覚が年齢の逆数に比例する加齢とともに、コンサバティブになることの自覚症状がありますが、「変化」に挑戦しなければいけないと、決意を新たにしました。